映画「哲人王〜李登輝対話篇〜」は、監督の園田映人が日本人らしさとは何かを求めて、たどり着いた先が台湾元総統・李登輝であったことが制作のきっかけとなっています。
監督は「李登輝が最後の日本人なのかもしれない」と言う思いが強くなり、映画を作ることを決意したのです。
監督の母は戦時中の台湾生まれ、いわゆる湾生で、祖父は台湾総督府で働いたのち、高雄商業高校の教諭となり、台湾の教育に命をかけた教育者でした。
日本式教育の大きな影響を受けた李登輝に、台湾の教育に命をかけた祖父の面影が重なったとき、監督にとってこの作品が「必然的な作品」となりました。
「哲人王」は日本人監督の描く、台湾への愛でもあるのです。
李登輝は日本統治下の台湾、淡水に生まれます。
子どもの頃から読書が好きで、数多くの本を読み、様々なことを学びました。
その背景としては教育に異常なほど力を入れる日本統治の特色がありました。その中で李登輝はカーライルや新渡戸稲造の著者に出会い、影響を受けます。
台湾の近代化に心血を注いだ日本人の中で、特に影響を受けたのは新渡戸稲造、後藤新平、八田與一の三氏でした。この三氏の「日本精神」を今なお李登輝は持ち続けているのです。
現在、李登輝は「アジア最高の政治家」「生ける伝説」「現存する最高のリーダー」「哲人政治家」と言われています。
台湾は、数百年に渡って外来政権によって支配されてきました。戦後の国民党独裁政権によって、「白色テロ」と言われる人権弾圧が行われていました。
そんな台湾を、一滴の血を流すことなく改革し、誰も成し得なかった独裁政権からの民主化を一代で達成させたのが李登輝です。
李登輝は台湾を台湾人のもとに取り戻したのです。
まさに偉業。
李登輝は世界に知られるべき存在です。
映画「哲人王〜李登輝対話篇〜」はそんな李登輝の精神と人生に迫るドキュメンタリー映画です。李登輝をテーマにした映画を作るということは「政治的」と見られることも少なくありません。
ですから、台湾人にとって取り組みにくい題材なのです。しがらみのない日本人の監督だからこそ実現できた企画です。
私たちは台湾で独裁から民主化を成し遂げた李登輝のことを多くの方に知ってほしいのです。
映画のあらすじ
日本の福島に住む大学生・まりあは絶望していた。
リアルタイムで世界からもたらされる戦乱、貧困、混沌といった現代社会の病理にうちのめされて、この世界で生きる気力がなくなってしまったのである。
そして、まりあが生きることを諦めようとした瞬間、彼女の意識は台湾の元総統李登輝の意識と同通し、図らずもまりあと李登輝の対話が始まる。
李登輝の口から紡がれるのは、日本統治時代の台湾、李登輝自身の少年時代の高度な教育環境。まりあは戸惑いながらも、李登輝の言葉に耳を傾け、今まで全く興味のなかった自分の国の、昔の素晴らしい一面に想いを馳せる。
李登輝は日本兵として戦った先の大戦やその後の台湾における白色テロなどの恐怖政治について語る一方、その間考えていた哲学的な問題や信仰についてもまりあに赤裸々に語っていく・・・。